クールなCEOと社内政略結婚!?
「朝食べ損ねたから、昼ぐらいはしっかりたべないとね」

「あさ美さんが朝食抜くなんて珍しいですよね」

「んー寝坊したうえに、いつもと違う駅から来たからさ。時間がうまく読めなくて」

 お行儀が悪いが、口元をおさえて咀嚼しながら答えた。せっかくの美味しい料理だ。全部食べたい。

「寝坊して、他の駅から来た――って言いました?」

 梨花ちゃんに追及されて、始めて自分がミスしたことに気がついた。

「えっ? そんなこと言ったっけ?」

 本来バカ正直に生きている私が上手にごまかすことなんてできない。

「言いましたよっ! ちょっと詳しく話をして下さい」

 噂付きの梨花ちゃんに私の秘密を知られるわけにはいかない……決して。

「あっ、そう言えば一件電話かけないといけないんだった。ごめん、先に行くね」

 急いで残りの食事を書きこむと、目の前で騒いでいる梨花ちゃんをおいて席を立った。

「あさ美さんっ! この話絶対聞かせてくださいよ」

 聞こえないふりをして、さっさと食堂を出た。

……あぁ、危なかった。

 まだ込み合う前のエレベーターで、自分の迂闊さにため息をついた。こんなことだと孝文がバラすバラさないの前に、私のうっかりで周囲に事実が明るみになってしまうだろう。

 もっと、気を引き締めないと。これまで何でも話をしてきた後輩に、こんな大きな隠し事をすることになって心苦しい。けれど、この秘密だけは知られるわけにはいかない。

 私は決意を新たに、午後の仕事にとりかかった。

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