クールなCEOと社内政略結婚!?
 初めて使うキッチンは、始めこそ慣れず手間取ったが、広くて使いやすい。今まで狭いキッチンで料理をしていたので、うれしくなって鼻歌混じりに包丁を使う。

「孝文の分どうしよう……」

 どんな経緯があったとはいえ、私たちは一応夫婦なのだ。私が彼の食事を作ってもおかしいことなど何もない。でも、それをしてしまうと、本当の夫婦みたいになるような気がして、考え込んでしまった。

 そもそも家で食事をするとは限らない。私が来るまで何もなかったキッチンから孝文が自宅であまり食事をしないことは明白だ。

 色々と考え事をしながら包丁を使っていると、目の前には山のような野菜たちがあった。

――こうなったら、ふたりぶん作ってしまおう。食材を無駄にするのは良くないし。

 私は自分に言いわけするかのように、ふたり分の食事を作るために手を動かした。

 ゆっくりと時間をかけて焼いた、チキンステーキにポテトサラダ、サイコロ状の野菜がたくさん入ったミネストローネ。残ったら明日の朝は、ペンネを入れて食べよう。

 ダイニングに今日の食事が並んだ。けれどまだ孝文は帰ってきそうにない。一瞬待っていようかと思ったけれど、勝手に料理を作ったうえに、待っているなんて何だか重い。私は「ぐぅ」とお腹がなったのを合図に、ひとり食べ始めた。

 いつもの茶碗にいつもの箸。自分の持ってきたものを使っている。いつも通りのひとりの食事なのになぜだか寂しく感じてしまう。それはきっと手をつけられることなく並んでいる、もうひとり分の食事のせいかもしれない。
< 73 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop