クールなCEOと社内政略結婚!?
「ふーん」

 感想が「ふーん」だけ? 罵られなかったけれど、それはそれでへこむ。

 肩を落とす私をよそに、孝文は右手の平を私に差し出している。

「ん?」

 意味がわからない私に少しイラッとした顔をして「鉛筆」とだけ言うと、もう一度こちらに手の平を差し出した。

 私が慌てて自分の持っていた鉛筆を渡すと、私のデザインに手を加え始める。

「わー! なんてことを……」

 そう口にした私だったけれど、孝文の描くデザインに口を閉じた。

 すごい。

 あっけにとられた私は、それからは何も言わずにただ彼が生み出すデザインを食い入るように見ていた。どれくらい時間がたったのだろうか、彼がテーブルに鉛筆を置いた音で我に返る。

「俺ならこうする」

 私にスケッチブックを渡しながらそう言った。そこに出来上がったデザインは私の描いたものに手を加えたものだけど、数段よくなっていた。削るところは削り、足すところは足す。そのさじ加減が絶妙で、私はただ感心するばかりだ。

「すごい。なんて言うか……」

 言葉にできずに、ただ紙指でなぞる。

「俺がデザインするなんて、意外だったか?」

 正直にうなずいた私を見て、孝文は小さく笑う。

「別に不思議じゃないだろう。これでも俺創業者一族だし。小さい頃はばあさんの仕事傍で見てたしな」

 彼がいうばあさんと言うのは、アナスタシアの創始者のことだ。彼女の成功なくしては、今のアナスタシアはなかった。
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