クールなCEOと社内政略結婚!?
 雅さん……帰って来るんだ。一面識もないけれど、私はこっそりとこう呼んでいた。

 佐々木雅さん。私がアナスタシアで働きたいと思ったきっかけを作ったデザイナー。私が入社するのと入れ替わりでいなくなってしまって、一緒に仕事をすることができないと思っていたのに、まさかこんなチャンスが来るなんて。

 私生活は波乱ばかりだけど、その代わりに失わずに済んだ仕事がだんだん波に乗ってきた気がする。その日から私はウキウキしながら山のような仕事をも、軽やかにこなしていった。

 その日私は少しでも話の真相を聞きたいと、孝文を待っていた。社員レベルで噂になるくらいの話だ。孝文ならもっと詳しいことを知っているに違いない。

 私は逸る気持ちを抑えきれずに、ほんの少し残業をしたあと急いで自宅に帰ると、適当にご飯を済ませて、孝文の帰りを待った。

 しかし、まぁ当然のごとく日々忙しい孝文が都合よく今日だけ早く帰ってくるわけでもなく、結局のところ時間を持て余した私はスケッチブックと持ち帰った仕事をリビングに広げた。

 会社での仕事の時間ではできない過去資料の分析や整理をこういった時間を使ってやる。ファッションは繰り返されることが多い。そのタイミングを見逃さずにいるためには、こういった地味な仕事をするのも大切なことだし、私の好きな仕事のひとつだった。
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