兄弟ものがたり
「かずくん、おそーい」

「遅いぞ、和人!」

「……ゆっくりでいいって言ったのはどこの誰だよ」


和人がようやくグラウンドついてみれば、並んで立つ陽仁と真悠に一斉に責められた。
ブツクサぼやきながら近づいていけば、妙に近く感じる二人の距離に、知らず眉間に皺が寄る。


「お前、試合はどうなってるんだよ」

「おれの出番はまだ先だからな。ところで、何でそんな怖い顔しているんだ?」

「……別に」


不思議そうに首を傾げる陽仁からふいっと視線を逸らすと、今度は同じような顔で首を傾げる真悠と目が合った。


「お弁当持たせて走らせたこと、そんなに怒ってるの?」

「俺はそんなにちっちゃい男じゃない」


言いようのないイライラが募り、真悠からも視線を逸らすと、和人はずんずん歩いて日陰にどっかりと腰を下ろした。
道中まさにお荷物だった重箱は地面に直置きしてやりたかったが、このあと自分もそれを食べるので、ぐっと堪えてあぐらをかいた上に載せる。
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