兄弟ものがたり
「ねえかずくん、何で怒ってるの?」

「怒ってないって言ってるだろ」


和人を追いかけるようにしてとことこと日陰にやって来た真悠が、トートバッグから取り出した敷物を広げる。
チラチラと様子を窺ってくる真悠と目が合わないように、和人は視線を下に落とした。

すると今度は、重箱が目に入る。
じっと見ていると「はるくんは玉子焼きは甘くない方が好きだから――」とか、「トマトは食べられないけどプチトマトは食べられるって不思議だよね」とか「ああー、おにぎりの具がサケフレークしかない。はるくん、おにぎりは梅が一番好きなのに」とか言いながらお弁当を詰めていた真悠の姿が浮かんでくる。

和人の分も含まれているとは言っていたが、メインは完璧に陽仁だ。そう思うと、何だか無性に心がささくれ立つ。


「かずくん、敷物飛んじゃうからそっちの端に――ああ、飛ぶ!ほら飛んでっちゃうから早く!」


そんな和人の心の内など当然知らない真悠は、敷物を押さえながら早く早くと急かす。
和人はため息をつきながら、敷物の上に移動した。

真悠の指示のもと、抱えていた重箱も重しにすべく敷物の隅に置いていると、背後からぶんぶんと激しく風を切る音が聞こえた。
振り返ると、テニスのラケットをまるでバットのように振り回す陽仁の姿が見える。
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