兄弟ものがたり
「……テニスの素振りって、あんなんだったか?」


和人の問いに「ん?」と振り返った真悠は、陽仁の姿を見て困ったように苦笑しながら首を傾げる。


「なにか違うような気もするけど、でもしょうがないんじゃない?ほら、はるくん高校の時は野球部だったし」

「だとしたって、テニスサークルに入ったならテニスのやり方に染まるもんだろ、普通」

「でもほら高校の時だって、中学の時はサッカー部だったからその癖が抜けてなくて、“ボール触ったらダメなんだろ!?”って言ってたでしょ」


言われてみればそうだった。当時陽仁は、触ったらダメなボールをどうやって味方に渡せばいいのかと真剣に考え込んでいた。


「そういえばはるくんさっき、ホームランかっ飛ばすからよく見とけって言ってたよ」

「……はあ?テニスでホームランって、どうやってかっ飛ばす気なんだよあのバカ」


二人が見つめる先で、ラケットをぶんぶん振り回していた陽仁は、コートに入る直前に二人に向かって満面の笑顔で大きく手を振った。

その直前の豪快な素振りのせいか、テニスのラケットを持ってテニスコートに入っていくのに、バットを持ってマウンドに向かうようにしか和人には見えない。
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