兄弟ものがたり
「もっと近くに行ってみる?」


陽仁に手を振り返しながら、真悠が問いかける。
既に腰を浮かせているところを見るに、もっと近くに行きたいのだろう。

お弁当のこともあるし、本当はこのまま日陰に座っていたかったが、真悠一人を陽仁のもとに行かせるのは癪だった。


「敷物飛んで行っても知らねえぞ」

「じゃあ、その辺から大きめの石を借りてくる」


そう言って駆け出した真悠は、どこから見付けてきたのか自分が持てる限界サイズの石を四つ、それぞれ端に置いて敷物を止めた。


「よし、これで完璧!」


得意げに笑った真悠は、ほら行こう!と和人促す。こうなると、行かないわけにはいかなくて、しかたなく和人は重い腰を上げた。


「あのバカのことだから、ボール打ち返す時にラケットごとぶん投げるかもしれねえから、当たらないようにしろよ」

「その時は、もちろんかずくんが身を挺して守ってくれるんでしょ?」


先に歩き出した真悠が、振り返って笑う。
その笑顔に、和人の心臓は大きな音を立てた。

眩しい、眩しい真悠の笑顔。
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