兄弟ものがたり
守ってやるなんて、そんな恥ずかしいことは思っていても言えないから、和人は「バーカ。自分の身は自分で守れ」と返した。

それに真悠が頬を膨らませて反論しようとした時、勢いよくボールが打ち出される音が聞こえた。
真悠は慌てて振り返り、和人もコートの方に視線を動かす。

コートの近くにいる人達が、なにやらどよめいている。そこに「よっしゃあー!場外ホームラン」という陽仁の嬉しそうな雄叫びが響いた。

よく見ると、コートの中で唖然とする相手プレーヤーをよそに、全力でガッツポーズをする陽仁の姿が見えた。


「あの、バカ……」

「すごいね、はるくん本当にホームラン打っちゃった!それも場外ホームランだって」


可笑しそうに、楽しそうに、真悠が笑って言う。

和人は完全に呆れていたけれど、コートの方からはちらほらと拍手が起こり始めている。
おそらく、陽仁があんまり喜んでいるから、みんな雰囲気に呑まれたのだろう。

笑顔で駆け寄る真悠に、陽仁はやってやったぞ!と言わんばかりにラケットを高く掲げ、遅れてやってきた和人には、満面の笑みでぐっと親指を立ててみせる。

当然、テニスに場外ホームランなんてルールはないので、陽仁は誰よりもいい笑顔で初戦敗退した。




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