兄弟ものがたり
「それじゃあ、一段目はチョコ系にして、二段目はクッキーにしようか。それで三段目はゼリー。これでどうかな?三原くんでも充分作れると思うんだけど……」

「任せておけ!おまえの邪魔にならないように努力する。真悠はチョコもゼリーもクッキーも大好きだから、きっとバッチリだ」


大学を出て、真っすぐに立河の家に向かった二人は、キッチンでエプロンをつけながら話し合う。


「えっと、とりあえず……材料は一通り揃ってるから、まずはクッキーの生地からいこうか」


先に支度を終えた立河が後ろを振り返ると、エプロンから伸びた紐を手に、四苦八苦する陽仁の姿が視界に写った。


「……何してるのって、訊いてもいい?」


まるで罠に掛かった獲物のごとく、紐を器用に体に巻きつけている陽仁は、首を捻りながら何度もあらぬ方向に紐を引っ張っている。


「もしかして、エプロンつけたことない?」

「小学校以来だ!それにあの時は、頭から被るだけのやつだったからな。こんな紐はついていなかった」


今度は、ぐるぐる、ぐるぐると短くなって手に届かない紐を追いかけて、陽仁は同じ所で回り続けている。
その姿は、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回る犬によく似ていた。
< 20 / 76 >

この作品をシェア

pagetop