兄弟ものがたり
「はい、ストップ。ちょっと貸して、ぼくがつけるから」


“待て”をするように立河が手の平をかざせば、陽仁は大人しく立ち止まる。
そのまま静かに立ち尽くす陽仁の手から紐を抜き取ると、巻き付いた部分を解いて、正しく巻き直して紐を結んだ。


「よしっ。じゃあ、クッキーの生地を作るから、まずは材料を量ろうか」


必要なものをてきぱきと準備していく立河を、陽仁は感心したように見つめる。
そのまま勢いで小麦粉を量ろうとしたところで、立河はハッとして手を止めた。

振り返れば、期待に満ちた眼差しを向ける陽仁がいる。


「三原くんのお礼なんだから、三原くんが自分でやらなきゃダメでしょ」


言われて初めて気が付いたようで、陽仁は「確かにそうだな」と頷いた。


「あんまり立河の手際がいいから、つい見惚れてしまっていた。わるいな!」


立河は苦笑しながら、陽仁に秤の前の場所を譲る。


「バサーってぶちまけたらダメだからね。ちゃんと目盛り見て、慎重に量って」


粉の入った袋を鷲掴みにして、今にもボウルにぶちまけそうになっていた陽仁は、既のところで手を止める。
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