兄弟ものがたり
「ならないのか?だって立河はさっき、“クリームみたいになる”って」

「それは、生クリームになるって意味じゃないから。クリームみたいに柔らかくなるまで混ぜてってことだから」


「そうだったのか……」と呟いた陽仁がボウルに視線を戻したところで、立河もまた材料を量る作業に戻る。
呆然としたまま、手だけは動かし続ける陽仁を横目に、立河は手際よく他のお菓子に使う材料も量っていく。

ゼリーもチョコも全ての材料を量り終えたところで様子を窺うと、陽仁のバターはいい感じに柔らかくなっていた。


「そのまま混ぜててね。ぼくが横から砂糖を入れていくから」


言葉と共に、サラサラと注がれたグラニュー糖が、クリーム状になったバターと混ざり合っていく。


「白っぽくなるまで混ぜてね」


言われたとおりに混ぜ続ける陽仁の横で、立河はサポートに徹する。

バターとグラニュー糖がしっかりと混ざり合って白っぽくなったボウルの中に、溶きほぐしておいた卵を加えたり、泡立て器をゴムベラに持ち替えさせて、小麦粉とベーキングパウダーを合わせたものを振るい入れたり――そうして出来上がった生地を、伸ばしてラップでくるんで、冷蔵庫で休ませる。
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