兄弟ものがたり
「はい、それじゃあ焼いている間に次にいくよ」


立河は、すかさず陽仁をまな板の前まで連れて行き、包丁を持たせた。


「最後はチョコね。型抜きとトリュフと二種類作るから、まずはチョコを包丁で細かく刻んで」

「……トリュフって、まさかあれか?世界三大珍味の……」

「そんなわけないでしょ。いいから切って」


包丁を手に再び驚愕の表情を浮かべる陽仁を一刀両断して、立河はチョコレートを刻ませる。
その手つきは、やったことがないだけあってやはりかなりぎこちなかった。


「うーん……魚ならスパッと捌けるんだがな。こういう細かい作業は苦手だ」

「……むしろ何で魚は捌けるの?」


ぎこちない手つきながらも、ようやく全てのチョコレートを刻み終えた陽仁は、ふう……と大きく息を吐いてまた額に浮いた汗を拭う。


「魚を捌くのは、男の仕事なんだそうだ!おれも和人も、小さい頃に父さんに仕込まれた。父さんはじいちゃんに仕込まれたそうだ」


ニカッと笑った陽仁は、立河の指示のもと、切り終えたチョコレートを半分ずつ二つのボウルに移して、そのうちの一つを湯煎する。
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