兄弟ものがたり
「おかげで今は、魚を捌く時だけは真悠の役に立てる。高校だって忙しいだろうに、男所帯じゃ何かと不便だろうって、しょっちゅう様子を見に来てくれて、すごく感謝しているんだ。本当は、魚を捌くこと以外で役に立てないのが不甲斐ないんだけどな」


自嘲気味に笑いながら、陽仁は溶けたチョコレートをシリコンの型に流していく。
流し終えた型を、また慎重に冷蔵庫に運び終えると、振り返ってもう一つのボウルに手を伸ばした。


「真悠には、いつかちゃんとお礼がしたいと思っていたんだ。だから、今日は付き合ってくれてありがとうな!立河」


ニカッと笑った陽仁に、つられる形で立河も笑う。


「佐川さん、きっと喜ぶと思うよ」


陽仁が手にしたボウルに、立河が温めておいた生クリームを注ぎ入れる。


「そうだったら、嬉しいな」


温かい生クリームで、ゆったりと溶けていくチョコレートをゴムベラで混ぜながら、陽仁が照れたように笑う。
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