兄弟ものがたり
「そうだ、星見さん。ホットチョコレート、メニューに加えたらどうですか?すっごく美味しかったですよ」

「それはありがとうございます。では今度、マスターと相談してみることにしましょう」

「そういえば私、まだマスターさんにお会いしたことないです。どんな方なんですか?」


このいかにもマスター然とした星見をおいて他にマスターがいるとしたら、それ一体どんな人なのか。いかにもコーヒーを極めていそうな初老の人か、それとも初老とまではいかないが、星見より渋みがある感じの人か。
色んな想像を巡らせながら答えを待っていると、星見はちょっぴり困ったような顔で笑った。


「どんな人、ですか。そうですね、彼を一言で表すならば――恥ずかしがり屋、ですかね」

「……恥ずかしがり屋、ですか」


それはなんとも予想外な一言で、真悠は困惑する。想像していたどんなマスター像にも、その言葉は当てはまらない。


「そうなのですよ。最近はようやく、少しずつ店にも出てくれるようになったのですが、大体いつも奥の部屋にこもって接客は任せきり。全く困ったものです」


そう言ってため息をついた星見は、苦笑する真悠に向かって「でも」と続ける。
< 37 / 76 >

この作品をシェア

pagetop