兄弟ものがたり
「そんな彼も、きっかけがあったおかげで、少しずつですが変わり始めました。それは、とてもいい変化です」

「……いい変化、ですか」


はい、と星見は穏やかな笑顔で頷く。


「変わることを怖いと思うのは当たり前のことです。変わるとは、必ずしもいいことばかりではありませんからね。変わったことで、失ってしまうものもあるかもしれません。でも、変わっても変わらないものだってあるはずですよ」


変わっても変わらないもの――その言葉はちょっぴり複雑で、わかるようでわからなくて、真悠はそれを示すように首を傾げる。

星見は、それ以上そのことについては何も言わなかった。


「今日は残念ながらマスターは不在なのですが、今度佐川さんがいらっしゃった時は、無理矢理にでも引っ張ってきますね」


そう言って笑みを浮かべる星見だが、その笑顔はいつもと違って少しだけ怖くて、真悠はまだ見ぬマスターに心の中でそっと謝った。





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