兄弟ものがたり
「いい。一人で帰れるから」


半ばムキになって答えれば、電話の向こうから和人の呆れたようなため息が聞こえた。


「アホか。どこにいるのか知らないけど、濡れて帰って風邪でも引かれたら困るんだよ」


真悠は、ムスッとしたままスマートフォンを耳に当て、重たい色をした空を見上げる。
雨はまだ、止みそうにない。


「そんなに俺が嫌なら陽仁に迎えに行かせるから、とりあえず場所を――」

「駅」

「駅?」


「そう、駅」と繰り返すと、和人は「でもお前さっきは――」と疑問を口にする。

それでも真悠は「駅、駅、駅、駅、駅!」と煩いほどに連呼した。最後は思いっきり大声で言ってやったから、さぞかし耳がキーンとしていることだろう。
「……声、でかすぎ」と苦しんでいる和人の声も聞こえたので、真悠は幾分すっきりした。


「お前、どっかの店の前にいるんだろ。そっから駅が近いのか?」


遠くはないが、近くもないといった微妙な距離。多少は濡れるのも覚悟しなければいけないだろう。
それを言ったら和人から何と返ってくるかは予想がつくから、真悠はしばし考えた。
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