兄弟ものがたり
「おい真悠、聞いてんのか」
「佐川さん」
何と答えようか迷って黙り込む真悠の耳に、スマートフォンから和人の声が、そしてそれに被さるようにして、星見の柔らかい声が聞こえた。
その瞬間、ほんの僅かだが、電話の向こうで息を呑むような音がした。
「雨が降っているようだったので、よかったら傘を――あっ、お電話中でしたか」
ドアをほんの少し開けて顔を覗かせた星見は、真悠がスマートフォンを耳に当てているのを見て、急いで中に引っ込もうとする。
その手に傘が握られているのを見て、「あっ、待ってください星見さん!」と真悠が声をかけると、スマートフォンから和人の絞り出すような声が聞こえた。
「……お前、男と一緒だったのか」
え、と驚きの声を上げた真悠が何か言うより先に、「そうか、そういうことか……」と和人が呟く。
「だから、どこにいるか言いたくなかったんだな」
「あのね、さっきの人は――」
真悠の声を遮るようにして、和人は「悪かったな、邪魔して」と言った。
それは初めて聞く、気持ちが全くこもっていない、冷たく感じる声だった。
「佐川さん」
何と答えようか迷って黙り込む真悠の耳に、スマートフォンから和人の声が、そしてそれに被さるようにして、星見の柔らかい声が聞こえた。
その瞬間、ほんの僅かだが、電話の向こうで息を呑むような音がした。
「雨が降っているようだったので、よかったら傘を――あっ、お電話中でしたか」
ドアをほんの少し開けて顔を覗かせた星見は、真悠がスマートフォンを耳に当てているのを見て、急いで中に引っ込もうとする。
その手に傘が握られているのを見て、「あっ、待ってください星見さん!」と真悠が声をかけると、スマートフォンから和人の絞り出すような声が聞こえた。
「……お前、男と一緒だったのか」
え、と驚きの声を上げた真悠が何か言うより先に、「そうか、そういうことか……」と和人が呟く。
「だから、どこにいるか言いたくなかったんだな」
「あのね、さっきの人は――」
真悠の声を遮るようにして、和人は「悪かったな、邪魔して」と言った。
それは初めて聞く、気持ちが全くこもっていない、冷たく感じる声だった。