兄弟ものがたり
「今日は父さんも遅くなるそうだから、夕飯は陽仁と二人で何とかする。だから、こっちのことは気にしなくていい」


「かずくん！」と呼びかけても和人は真悠の話を聞こうとはせず、一方的に「じゃあな」と言って電話を切った。

沈黙したスマートフォンを耳に当てたまま、真悠はしばらく動きを止める。


「佐川さん……？」


後ろから遠慮がちに掛けられた声に、真悠はようやく手を下ろして顔を上げた。


「なんか、誤解……させちゃったみたいです」


困ったような、泣きそうな顔で笑う真悠に、星見は申し訳なさそうに眉を下げる。


「すみません……私が突然話かけたりしたから」


申し訳ありません、と頭を下げる星見に、真悠は慌てて首を横に振る。


「いいえ全然！星見さんは何も悪くないです。誤解させるようなことした、私が悪いんです……」


自分だけの秘密の場所にしておきたかったから、ちょっぴり和人を困らせたい気持ちもあったから、そのせいでいらぬ誤解を与えてしまった。
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