兄弟ものがたり
「別途に料金が発生しますが」

「スマイルはどこでも一律ゼロ円って決まってんの」

「誰が決めたんですか」


不毛な会話を繰り広げながら、和人は伝票が返ってくるのをひたすら待つ。
黙っていれば、嫌でも電話口から聞こえてきた声を思い出し、知らずに眉間に皺が寄る。


「どうせ顔合わせるなら、そんな仏頂面より、嘘でも笑ってたほうがいいって話。一応客商売なんだから」

前田(まえだ)さんだって、お世辞にも愛想がいいとは言えないですよね。第一、言葉遣いが荒――」

「うるさい、黙れ」


不意に伸びてきた手に頬を摘まれて、これでもかと引き伸ばされる。
女性特有のほっそりした綺麗な手をしているのに、それに似合わず摘む力は中々強い。

ぱっと離されて、ヒリヒリ痛む頬をさすっていると、やや乱暴な動作で、サインを終えた伝票が返された。


「これ持ってとっとと帰れ愛想なし」


伝票を受け取り、サインがあることを確認して、ここでの和人の仕事は無事に終了。それなのに、なぜだか足が動かない。
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