兄弟ものがたり
「なに、まだ何かあるの?」


届けたばかりのダンボールを開けて中を確かめていた前田が、立ち尽くす和人に視線を送る。


――「佐川さん」


頭の中に響いてくるのは、見知らぬ男の声。
会ったことはなくても、物腰柔らかな大人の雰囲気が漂っていたことは、声だけで容易に想像出来た。

前田が言う通り愛想がなくて、前田のことをとやかく言えないくらい言葉遣いも荒い自分とは、対極にいるような人物。

そうか、真悠は、そういう大人の男が好きだったのかと思ったら、胸がズキズキした。


「三原?」


前田の声に、またハッとして顔を上げる。
いつの間にか、思考の波に引きずられるようにして俯いていた。


「具合でも悪いの?」

「いえ……なんでも、ないです」


前田の視線から逃れるように、キャップのつばをぐっと引き下ろす。
色んなものがぐるぐる回って、頭の中がごちゃごちゃして、今日はちっとも仕事に集中出来ない。
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