兄弟ものがたり
俯きがちに視線を下ろして、歯を食いしばる。
頭の中に鳴り響く声を、何とかして消しさりたかった。
「あんた、このあと配達何軒あるの?」
前田の言葉に、和人は僅かに視線を上げる。
「あと、もう一軒……ですけど」
外に止めた配達用のバイクには、もう一軒分のダンボールが積まれている。それを届けて、バイクを返しに店に戻れば今日の仕事は終わりだ。
「ならさっさと届けて、戻ってこい」
「……はい?」
追い出すように背中を押されて、和人は慌てて振り返る。
「ちょ、ちょっと待ってください。戻ってこいってなんですか」
扉の前まで背中を押され、今にも外に放り出されそうな状態で振り返った和人の視界に、前田の意味ありげな笑顔が映り込む。
「今日は暇だから、特別。負のオーラがダダ漏れのあんたを、いいとこに連れてってやる。だから、残りの仕事をきっちり終わらせて、ちゃんと戻ってこいよ」
とんっと背中をひと押しされて、開いた扉から外に放り出される。
言葉を返す隙も与えず、無情にも和人の目の前で扉が音を立てて閉まった。
*
頭の中に鳴り響く声を、何とかして消しさりたかった。
「あんた、このあと配達何軒あるの?」
前田の言葉に、和人は僅かに視線を上げる。
「あと、もう一軒……ですけど」
外に止めた配達用のバイクには、もう一軒分のダンボールが積まれている。それを届けて、バイクを返しに店に戻れば今日の仕事は終わりだ。
「ならさっさと届けて、戻ってこい」
「……はい?」
追い出すように背中を押されて、和人は慌てて振り返る。
「ちょ、ちょっと待ってください。戻ってこいってなんですか」
扉の前まで背中を押され、今にも外に放り出されそうな状態で振り返った和人の視界に、前田の意味ありげな笑顔が映り込む。
「今日は暇だから、特別。負のオーラがダダ漏れのあんたを、いいとこに連れてってやる。だから、残りの仕事をきっちり終わらせて、ちゃんと戻ってこいよ」
とんっと背中をひと押しされて、開いた扉から外に放り出される。
言葉を返す隙も与えず、無情にも和人の目の前で扉が音を立てて閉まった。
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