兄弟ものがたり
この店に和人は今日初めて来たし、目の前の男性とも、初めましてのはずだ。そりゃあ声は前から知っていたけれど、顔を合わせるのは間違いなくこれが初めてだ。
それなのに、相手は和人のことを知っている。
しばし黙ったまま見つめ合っていると、驚きに見開かれていた男性の双眸が、やがて穏やかな笑顔に変わっていく。
「佐川さんに聞いていた通りですね。ではあなたが、“かずくん”なんですね」
その呼び名で和人を呼ぶのは、たった一人だけ。
柔らかく微笑んだ星見は、前田にはコーヒーを、そして和人には、甘い湯気が立ち上るカップを差し出した。
「先日、佐川さんがお飲みになったのと同じものです。こちらは私からのサービスですので、他のものがよろしければどうぞ遠慮なく申し付けてください」
甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐり、何の前触れもなく、真悠の笑顔を思い出した。
そういえば真悠は、チョコレートが大好きだった。
「初めて来たのに、三原だけ特別なんてずるいよ星見さん」
「前田さんは甘いのが苦手じゃないですか。これ、ホットチョコレートですよ」
「ホット……チョコレート?なんて、メニューにあったっけ」
「これは、特別なんですよ。だからサービスなんです」
それなのに、相手は和人のことを知っている。
しばし黙ったまま見つめ合っていると、驚きに見開かれていた男性の双眸が、やがて穏やかな笑顔に変わっていく。
「佐川さんに聞いていた通りですね。ではあなたが、“かずくん”なんですね」
その呼び名で和人を呼ぶのは、たった一人だけ。
柔らかく微笑んだ星見は、前田にはコーヒーを、そして和人には、甘い湯気が立ち上るカップを差し出した。
「先日、佐川さんがお飲みになったのと同じものです。こちらは私からのサービスですので、他のものがよろしければどうぞ遠慮なく申し付けてください」
甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐり、何の前触れもなく、真悠の笑顔を思い出した。
そういえば真悠は、チョコレートが大好きだった。
「初めて来たのに、三原だけ特別なんてずるいよ星見さん」
「前田さんは甘いのが苦手じゃないですか。これ、ホットチョコレートですよ」
「ホット……チョコレート?なんて、メニューにあったっけ」
「これは、特別なんですよ。だからサービスなんです」