兄弟ものがたり
「誤解は、解けましたでしょうか?」

「はい」


その淀みない返事に、星見は笑って頷いた。


「ねえ、星見さん!星見さんの生涯心に決めた人って誰?」

「それは、内緒です」


さっきまでコーヒーを飲みながら黙っていた前田が、突然我慢出来なくなったように身を乗り出す。
それを笑顔でかわしながら、星見は和人の空になったカップを下げた。


「それって、お客さん?よく来る常連さんとか?」

「さあ、どうでしょうね。三原さん、おかわりはどうなさいますか?」


前田の質問をかわしつつ、星見は和人に笑顔を向ける。
和人も笑顔を返しながら、首を横に振った。


「今日はこれで帰ります。大事な用事を思い出したので」


言いながら帰り支度を始める和人に、前田がぶすっとした顔で不機嫌な視線を投げつけた。


「こら三原!折角連れてきてあげたのに、あたしへのお礼はなしか」

「いい店教えてくれてありがとうございました、前田さん」


ぺこっと頭を下げて扉に向かう和人の背に、不満げな前田の声が追いすがる。
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