兄弟ものがたり
「前田さん、あまり三原さんを困らせるのは感心しませんよ。三原さんには、大事な用事があるんですから」


まるで聞き分けのない子供を諭すような言い方に、和人は人知れず笑いを堪えると、扉に手をかけて振り返る。

ぶすくれた前田がコーヒーをおかわりする姿と、笑顔でそれに対応する星見の姿が見えた。


「ごちそうさまでした」


二人に向かって、改めて頭を下げる。
顔を上げたとき、星見の柔らかい笑顔が視界に写った。


「またのお越しを、お待ちしております」


その穏やかな声音に背中を押されるようにして、和人を一人、店を出た。
店を出てすぐ、ポケットからスマートフォンを取り出して電話をかける。


「……はい、もしもし?」


久しぶりにちゃんと聞いた真悠の声は、どことなくぎこちない。

和人は大きく息を吸い込むと、精一杯の明るい声を出した。今だけは、陽仁の能天気な明るさを見習うような気持で。


「今日の夕飯だけどさ、俺、カレーが食べたい」
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