兄弟ものがたり
まずはやっぱり無視していたことを謝るべきかとか、それより先に変な誤解をしたことを謝るべきかとか、色々考えていたはずなのに、真悠の声を聞いたら、一番に出てきた言葉はそれだった。
だから、電話で謝るのはやめにした。やはり謝罪は、顔を見て直接伝える。

そんな風に思っていた和人の耳に、微かに笑い声が聞こえた。
それは、久しぶりに聞く真悠の笑い声で、笑顔も一緒に頭に浮かんだら、心の中がほんわりと温かくなった。


「さっきね、はるくんも同じこと言ってた。今日のご飯はカレーがいいって」


陽仁と同じ、というのが何とも気に食わないが、真悠が可笑しそうに笑っているから、和人は何も言わずにおく。


「私もね、なんとなく今日は、カレーって言われそうな気がしてたんだ」


真悠が、ふふっと嬉しそうに笑う。


「だから、既に作っています!」


「じゃじゃーん」などと言われても、残念ながら電話越しではカレー感が全く伝わってこない。


「美味しいカレー作って待ってるから」


スマートフォンを耳に当てたまま、和人の足は家の方向に向かって進み始める。


「早く帰ってきてね、かずくん」


弾むような真悠の声に、心なしか和人の歩調も早くなる。
気がつけば、同じように家路を急ぐ人の波を縫うようにして、走り始めていた。

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