兄弟ものがたり
何か言わなければと思えば思うほど言葉が出てこなくて、それでも無理やり言葉を発すると、最早自分でも何を言っているのかわからなくなる。


「とりあえず、おれはおまえのように頭がよくないから、おまえが何を言いたいのかはよくわからないが、好きな人の前では素直になった方がいいぞ。まあいきなりは無理だろうから、徐々にそういう方向にシフトしていこう!ひとまず、おれで練習しておけ。さあ、おれを真悠だと思って、素直な気持ちをぶつけてみろ!」

「っ!!?なんでそこで真悠が出てくるんだよ!!」


耳まで真っ赤に染めて怒鳴る和人に、陽仁は“さあ”と両腕を広げた体勢で答える。


「なんでって、ずっとおまえの頭の中に浮かんでいただろ?おれに好きな人がいるだろって言われてから、おまえ明らかに誰かを思い浮かべながら話していたし」

「だ、だからってなんで!いや、別に俺は――つうか、腕広げたまま近付いてくるなよ気持ち悪い!!」


今にも和人を抱きしめようとするように、陽仁は腕を広げたままで距離を詰める。
和人は慌てて立ち上がると、椅子に足をもつれさせて転びそうになりながら逃げた。


「いいじゃないか。これも素直になるための第一歩だ!昔はよくしただろ?ハグ」

「いつの話をしてんだよ!大学生にもなって、朝から兄弟でハグなんか出来るか!!」

「父さんが前に言っていただろ?いくつになっても、二人はお父さんの大事な子供だよって。つまり、おれ達は子供だ!朝からハグをしても恥ずかしくない!」

「意味が違うだろこのバカ!」
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