兄弟ものがたり
「お、お前なあ……危うくおでこが割るかと思っ――」


痛む箇所を抑えて振り返った和人は、腰の辺りに感じる違和感に視線を下げて、言葉を失った。
そこには、必死の表情で和人の腰にしがみつく真悠の姿がある。真悠の細い腕が、ガッチリと和人をホールドしていて離れる気配がない。

その光景に、和人の心臓がまた大きく音を立てた。


「ちゃんと返事するまで離さないからね!」


むくれたような表情で見上げてくる真悠を、和人は振り払うに振り払えず苦悩する。


「わ、わかった。わかったから、いい加減……」


“離れろ”と口を動かす前に、真悠の手がパッと離された。


「よろしい!じゃあ、さっさと準備して降りてきてね。下で片付けしながら待ってるから」


先程までの必死なしがみつきようが嘘だったように、真悠はあっさりと離れていく。

しがみつかれた時は早く離して欲しいと思っていたのに、そんなにあっさり離されると、あっさり過ぎやしないか?もう少しこう、粘っても……と和人はややモヤッとする。まあ、粘られたら粘られたでそれも困るのだけれど。

和人から返事を引き出せたことがよほど嬉しかったのか、真悠は鼻歌交じりに階段を下りていく。
それを無言で見送った和人は、その背中が見えなくなったところで、深くて長いため息を零した。





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