兄弟ものがたり
なるべく弁当箱を揺らさないようにして走るのは、普通に走るよりも体力を消耗する。
ピンピンしている二人をジト目で睨みつつ、和人は真悠の背を追いかけて走った。


「ほら和人、頑張れ!」


陽仁が、和人の背中に手を添えて、結構な力でぐっと前に押し出す。真悠の背中が、さっきよりも近くなる。


「引っ張ってあげようか、かずくん」


振り返った真悠に小馬鹿にしたような笑顔でそんなことを言われたら、和人だって負けられない。


「いらねえよ!ちゃんと前見て走れ、転んでも知らねえぞ」


あともう少しスピードを上げれば、真悠に並ぶ。いつも前を走っていた真悠の、隣に。
そう思うと、和人はどうしようもなく後ろが気になった。

後ろを走る、陽仁のことが。

絶対にまだ余力を残しているはずなのに、決して追い抜こうとはしない、並ぼうともしない、二人の後ろというポジションを守りながら走る、陽仁の存在が。
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