Be!渋谷店の事件簿
「サボり?」
「そっちこそ」

休憩室のソファーに普通にくつろいでいる五十嵐。
なんで本社の人がこんな奥まで入って来てるんだっての。

「俺は鍵待ち。誰かさんが鍵持ったままうろついてっからB1会議室に行けないで困ってたの」

とっさにワーキングバッグの外ポケットに触ると固い感触が

「あ……」
朝一に警備の人から受け取った鍵だ。

「あ、じゃねーよ」
「いるの?」
「だから待ってんだろうが」
「本社の人が渋谷店の会議室に何の用?」
「はぁ?ケンカ売ってんのか?」

五十嵐の顔がみるみる険しくなる。
言い過ぎた。
素直に鍵を渡せばいいいのに、なんで五十嵐を怒らせるようなこと言っちゃうんだろう。

「うるさいぞ、おまえら」

真田部長が両手に湯呑を持って現れた。

「ありがとうございます」

助かった。
五十嵐と二人きりの空間は耐えられない。

「百瀬」
「はい」
「出せ」

真田部長に言われたら、
「すみませんでした」
素直に出せるのにな……

私から鍵を取り上げ五十嵐に渡すと、何事もなかったように休憩室に置いてある事務机の椅子に座る真田部長。
ソファーには五十嵐。
その目の前のソファーに座るか迷った挙句、

「いただきます」
立ったままお茶を頂くことにした。

そんな私を五十嵐が下からじろりと睨んでくる。

「……」

居た堪れない。
< 10 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop