Be!渋谷店の事件簿
「木村さん。そういうことは仕事に支障をきたすんじゃないんですか?」

五十嵐が振り返って木村課長の方を向いた。
横顔がやっぱり男らしくなったな、なんて改めて思う。
でも、目元のあたりにはあの頃の面影が残っている。

――― そう ……―――

「っ……」
心の中で名前を呼んだ瞬間、五十嵐が振り返るから、焦った。

「五十嵐。おまえもあの話信じてるのか?」
木村課長の声が遠くに聞こえる。

「バカが。木村さんが来たぐらいで固まってんじゃねーよ」
五十嵐が私に悪態をついてる。

いや、それが原因で固まった訳じゃないんだけど……

「そんなに百瀬が心配ならおまえも一緒に昼飯どうだ?」

木村課長がせっかく誘ってくれたのに五十嵐はまだ私を睨んだまま。
来なくていいけどね。
そんな顔されてちゃ美味しくなくなりそう。
それにいつも忙しい五十嵐がランチの誘いなんて乗る訳ない。

「ご一緒します」

「え?行くの?」
「なんだよ。俺がいたら邪魔なのかよ」
「だって、いっつも忙しい忙しいって言ってるって……」
「どこからの話だよ」
「いーよ。無理して来なくても」
「いーや。絶対行ってやる」
「遠慮しなよ」
「なんでだよ。おまえそれでいいのかよ。木村さんだってもうバレてんだからいい加減にしたらどうですか!」

五十嵐の怒りの矛先は会議室の外に立ってるだろう木村課長へと向かった。

「ははは。おまえら本当に仲良いんだな」

木村課長の笑い声がする。

どこが、こんな奴と……

「木村さん。笑い事じゃないですよ。本社でも噂が流れてて……」
五十嵐が外に向かって言う。

さっきから言ってる噂って……

私が口を開く前に、木村課長の声がした。

「五十嵐もあんなバカげた噂信じてるのか?俺と百瀬が広島時代から不倫してたって」
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