Be!渋谷店の事件簿
「横浜に何かあるんですか?」

一瞬、私をじっと見つめた後、「さぁ。なんでしょうね」って蓮見チーフははぐらかした。

「横浜に愛人宅があるとか?」

うふふと蓮見チーフは笑うけど……それは冗談なんですよね?

「そう言えば、百瀬さんも木村課長の愛人って噂があったわね。ライバル出現じゃない」

笑いながら言われた。

「蓮見チーフは信じてないんですね」

軽く肯いた蓮見チーフは

「ここは噂好きな子が多いからね。まぁどこでもそうかもしれないけど」

そう言った蓮見チーフの優しい目は、私にエールを送ってくれてるように感じた。
それは自分が噂に振り回されてるから?

五十嵐がマリンお嬢様と…って噂があるけど、私には信じられない。
たぶんそれは噂だけで、本命は蓮見チーフですよ。
って私が言うのもおかしな話だ。

「第一、由香主任を見たら木村課長より由香主任を好きになっちゃいそうでしょ?」

本当に嬉しそうに笑う人。

「確かに。素敵な人ですよね」
「私の憧れの方なの」

蓮見チーフ、可愛い。
バチバチの女の戦いなんて全く想像できないんですけど。

「じゃ、あんまり遅くならないうちに百瀬さんも帰りなさいね」
「はい。お疲れ様です」

五十嵐が選んだ人は素敵な女性。
身のこなしも声も、香水だって上品で……

「ふぅ」

五十嵐はもうとっくに変わっていたんだな。
昔のことにこだわってるのは私だけだったみたい。
置いてけぼりされた気分だ。

みんなこうやって大人になっていってるのに、私一人だけ成長できてない。
そんな気がする。

外は煌びやかな世界なのに、一人きりのオフィス。
泣きそうになった時、シーンとしたオフィスにコトという小さな音がした。
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