Be!渋谷店の事件簿
軽く蹴りで牽制をしかけると、五十嵐も両手を上げて構え始めた。
左手を割と高い位置で構える五十嵐の癖。
変わってない。
あの頃の奏がいる。

お互い自然と入り口近くのちょっと広いスペースに移動すると、五十嵐がいきなり蹴りを入れてきた。
両手で受けたけど、重たい。
これは対等に戦ったら負ける。
受けた腕をすぐに引き、そのまま中段の突き。
避けられたところを目指して裏回し蹴り。

「おいっ。裏回しはやりすぎだろ」

そうは言っても五十嵐も笑ってる。

「そっちだって、か弱い女子相手にいきなり上段蹴りとかないでしょ!」
「だれがか弱いって?」

喋りながらも繰り出される攻撃を、避けたり、反撃したり、

「私。か弱いゆずちゃんですー」
「違うね。インターハイ、ベスト8の百瀬柚希だ」
「知ってたの?」
「ちなみに、黒帯3段」

当たってる。

「五十嵐だって、東京の大学は空手の推薦で引っ張られたんでしょ?」

構えの姿勢を解いた五十嵐はなぜか私を睨んでいる。

「呼び方変わってんぞ」
「失礼しました。五十嵐マネージャー」
「そっちじゃねーよ」

被せ気味に不機嫌になった五十嵐。

「どっちよ」
「おまえ。なんであの時……」

話を途中で止めた五十嵐に、心臓が止まりそうになった。
なにその真剣な目。
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