浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
本音で話そう

ゆかりさんに聞いて向かった先は古いアパートだった。
しかも駅から激遠っ!

昭和の臭いがプンプンする錆びた階段を上って右から二番目。
もちろん鍵はかかっている。

「しまったな。ゆかりさんに貰ってから来るんだった。」

二人ともパニクってて、そこ気づかなかった。

仕方なくドアの横の小さなボタンを押す。
すると『ビーーー』とけたたましい音が鳴って、慌てて手を離した。

チャイムの形態から「ピンポーン」ではないなと思ってたけど、こんな音じゃ他の部屋にも響いちゃう。
まぁこんなアパートじゃ、階段上る音も丸聞こえだろうけど。

私は玄関ドアに張り付き、小さな声で話しかけた。
「……誠ちゃん?いる?あの、私はゆかりさんに頼まれて来たんだ。藤原透子って言います……」

そんなに大きな部屋じゃなさそうだから、聞こえるだろうけど返事はない。

「誠ちゃん?いるんでしょ?」
部屋の電気はついてるから居るはずなんだけど物音ひとつしない。

寝てる?いや……もしかして……倒れてる? 

嫌な考えが浮かぶ。

咄嗟にドアを拳で叩いた。「……誠ちゃんっ!」何度か叩いた時、
ドアについている新聞受けが中から開いた。

「あ、誠ちゃん?…………よかったぁ。」
「誰?何?」
「あ、あの、私ゆかりさんの友達で!」
「…………」
「よかったら開けてくれないかな?」
「嫌だ。」

即答。

「知らない人にドアは開ける訳ねーじゃん。」

そして正論。

一人で留守番してる保育園児は、夜中に来た知らない人にドアを開けたりしないよね。
でもここで諦めるわけにはいかなーい。
「私、知らない人じゃないよ。ホラ!前にスーパーで会ったじゃん!ママの友達!」

そう言って、新聞受けの前で顔を晒す。
そこに見える2つのつぶらな瞳が疑わし気にわたしを見つめる。

「…………覚えてない。」

ですか。ですよね。幼児はすぐ忘れますもんね~

開けてくれないとなるとどうしようもない。
無事そうだから帰ろうか。

「ママが心配してたから。無事なんだね?だったらいいんだ。…………困ったことはない?」
「ない」
「そっか。じゃあ帰るね。あ、ゆかりさんにメールしておいてね。」
新聞受けに向かってバイバイと手を振る。

これでいいのかなぁ。ゆかりさん、安心できるかなぁ。
でもこれ以上ここで押し問答してたら通報されそうだし。
電車に乗ったら私からもメールしておこう。

背中を向けて階段を降りきった時、「おばさん!」と後ろから声を掛けられた。

『おばさん』に反応したわけではない。後ろで急に声が聞こえたから振り向いただけ。

そこにはドアを開けて立っている誠ちゃんがいた。




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