浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
……え?どういう状況?
下着を整えながらもその場から動くことはできず、すぐ開かれるであろう玄関を見つめる。
なんですか?
恋人との情事の最中に、社長さんを追いかけていっちゃった?
え?えぇーーーーっ!!
パニックになってると、ピーッとお湯が沸いた音がして慌ててコンロに駆け寄る。
あ、しまった。手を洗ってなかった。
そう思ってシンクに目をやると、先程までの優の愛撫が思い出されて恥ずかしくなる。
そしてシンクの前の壁を見やる。
じーっ……
「ま、まさか」
さっきの……聞こえてた……!?
あの、私のお恥ずかしい喘ぎ声とか、声とか、声とかーーー!
泡だらけの手で頭をかきむしる。
この台所の向こうは紛れもなく女社長の家。
マンションにありがちな、隣の家と正反対の間取り……だとしたら。
一人で静かにキッチンに立ったあちら様には、私の声が聞こえていただろう。
「マ、マジ……?」
こんな恥ずかしいことはない。
呆然としながらも先程より困惑している私。
「どど、どうしよう、ど……」
ブブブブブブ
冷静になれと言わんばかりの携帯のバイブ音にも鼓動がはね上がる。
犯罪がばれたように恐る恐る鞄から出してみると、
ゆかりさんだった。
「あ、わたし、ゆかりですが。あの、今週来てないから電話しました~」
なぜ?なぜに?このタイミング!
「実は誠一が透子さんに会いたいと言ってて~忙しいとは思うんだけど、また良かったら会ってやってもらえないかな、と。」
「は?あ、誠ちゃん……」
すっかり忘れてた~!
「いつかお暇じゃないです?週末はムリだって言ってたので、明日良かったら……」
「わた、わたし、今それどころじゃ……」
社長に私の喘ぎ声を~!
「…………何かお困り?だったら!できることなら私にさせて!誠一がお世話になってるし、今度は私が…!」
「だ、大丈夫っっ!大丈夫です!」
わぁ~!彼氏の元カノにこんなこと相談できるもんか~っっ!
「今、仙台なんです!明日無理です!」
「え?仙台……あ、もしかして!ごめんなさい!!こんなときに電話して!」
「や、それはいいんです。優は居ませんから。」
「え?居ないの?」
「は、はい。でも明日はダメで、明後日なら行けますよ!」
「え?本当に?……じゃあ、疲れてなければ金曜日会ってやってくれる?私は仕事なんだけど。」
「はい!喜んで!」
そうして通話を切った私は時計を見た。