浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
小さな戦士
私は逃げるように荷物を胸に抱え、席を立って足早に車両の出口へと向かう。
「あ、あんた、名前は!?」
後ろから言われたけど、取り合えず振り向きも返事もせず。
ようやくホームに降り立って、ヤツが追っては来なかったことにホッとした。と同時に手に持っていた名刺に気付く。
「あ、受け取っちゃった」
その名刺は見もせず、ホームのゴミ箱に捨てた。
あ~怖かった。
こんなことあるんだなぁ……
と思いつつ、自宅へと急いだ。
あの変なナンパ男のせい(おかげ)で、昨日の憂鬱な夜は上書きされたように心が軽くなった。
次の日、会社に行くと早速三池さんが絡んできた。
「お~昨日は楽しかったか?」
ほとんど有給を取らない真面目な私が、突然の有給消化。気になるだろうね。
「……すいませんでした」
有給は当然の権利なんだけど、皆が仕事している時に休むって変な背徳感があってつい謝ってしまった。
「いやぁ~お前ら、仲良いよな。ま、その指輪がラブラブ度を語ってるよな。」と、私の左指を指す。
そう、そこにはプロポーズを受けてからずっとダイヤの指輪が光っている。
「なのに、なんでしょっちゅう俺のとこに電話あるわけ?」
「え?」
「だーかーら、なんで昨日も電話かかってくんの?吉岡くんから。」
「……?そうなんですか?仲良いんですね……」
「ちげーよ!『最近変な事ないか?』って!お前ら会ってるんだろ?直接やり取りしてくれよ!」
「そう言われましても……直接言ってくださいよ。」
「言ってるよ!でもかかってくるんだよ~!俺、お前の保護者じゃないっつーの!」
「…………まぁ、監視係らしいですけど、ねぇ。」
「……へっ?」
「なんでも私の監視の見返りに業界の情報を……もがっっ!?」
急に後ろから羽交い締めにするように口を押さえられて、息をしようともがいた。
「なにっ?なに言っちゃってんの~?」
アッハッハ~と私の後ろで笑いつつ、「それを言うなら俺も言っちゃうよ」と低ーい声で脅してきた。
「いいのかな?吉岡くんに『アレ』言っちゃっても。」