浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)

「いや、あの、私の席はあっちだと……」
「え?あっちも自由席でしょ?」
「あ、……そ、そうでしたか?」
「ここ空いてるし。どーぞどーぞ」
無理矢理カバンを取られ、網棚に乗せられる。

「どーぞ。また会ったね~」
なんだか人懐っこい笑顔で笑いかけられ、他人の振りをすることが出来なかった。

周りの人の視線が気になり、ストンとその席へ座った。

なぜ?なぜこんなことになった?
今から一時間もがっつり話さないといけないじゃないか!

簡単に屈してしまった自分に問いかけるも後の祭り。

「ほんの3日しか経ってないのに忙しいね~。俺も忙しいけど。」
彼の膝の上にはノートパソコンが開かれていた。

「……お仕事、ですか?じゃあ私黙ってますから、どうぞ。」
すると彼はパタンとパソコンを閉じ、こちらに膝を向けた。

だから、近いって!この人、距離取ることを知らないんじゃないの!?

「いーのいーの。だいたい終わったから。
この間はありがとう。俺、強引に喋っちゃってごめんね。」
「いや、今も……」
「アハハ!今も強引かっ!」

しまった。つい心の声が……。

「でも実際に助かったんだよ。全然知らないキミと車内で話して。」

私は貴方と話した覚えはありませんが。

「いろんな出会いがあるんだなぁって。で、嫌がるキミに無理矢理絡んでいく……」
「絡んでいる自覚はあったんですか?」
あまりにも勝手な言い種に、つい本音が漏れる。
「まぁね。そういうのってどんなのか考えてたから。仕事上……ね。」
「仕事……ですか。どんな仕事です?」
「あれ?名刺渡したじゃん。」
「……あ。」
「見てないの?」
「えっと……はい。」
「んー。ま、仕方ないか。そりゃ知らない男に名刺渡されてもね。えっと、名刺は配り歩いちゃったからもう無いなぁ。俺の仕事はプログラマー。企画からなんでもプログラムする何でも屋!」

「…………へぇ」
「あれ?興味なかった?」
「……そんなことないですけど。」
「今さぁ、恋愛シミュレーションのプログラムしててさぁ。」
「恋愛シミュレーション!?」
「そう。俺、今までロールプレイングとかアクション系のが好きだからそっちばっかりやってて。最近は恋愛系の市場がスゴくてさぁ。困っちゃってて。」
「あー。だからですか。」

この人と話していて初めて落ち着いて話せた。
先日からの突拍子もない言動は、その取っ掛かりを掴むためなんだとようやく納得できた。



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