浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
絡まる糸
駅からはタクシーに乗らずにバスで行くことにした。
優は仕事かもしれないし、今月は交通費使いすぎだし。
だけど、タクシーか歩きにするべきだったとあとから死ぬほど後悔した。
優の部屋は鍵が開いていて、玄関には女性用の見知らぬサンダルがあり、その中から声が聞こえたんだ。
「……私じゃダメなの?」
「そんなことっ!ないよ!」
男女が揉めている。もちろん一人は優だ。
「この子は産みたいの……」
「わかってるよ……。」
「悠長なこと言ってられないの!そうこうしてるうちにお腹も大きくなっちゃうのよ!」
「わかってる!わかってるから……落ち着いて。お腹の子に障る。」
「すぐるにはわからないわよ!」
「万里子さん。何とかするから……泣かないで。大丈夫。ちゃんとするから……」
「すぐる……」
「大丈夫。ちゃんと望まれてるよ、この子は。」
何が何だかわからない。
だけど、かすかに聞こえる衣擦れの音が二人が触れているのがわかる。
これ以上聞いてはいけない。見てはいけない。
私はそっと玄関から出た。
心臓がドキドキしている。そして膝がカクカクしている。全身が細かく震えているのがわかった。
相手は万里子さん?
なんで抱き合ってるの?なに?妊娠してる?
どういうこと?
私の単純な頭ではいい考えが思い浮かばない。
ただ、胸の奥だけはキリキリと痛む。
優は浮気者じゃない。
だけど今のは、浮気……じゃないの?
しばらく玄関ドアの前に立ち竦んでいた。