浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
万里子さんはしばらく黙って、やがて「いい、明日で。」と優の提案を断った。
ホッとした。それと同時に自分に嫌悪を感じた。
優の妻になるっていうのに、仕事に焼きもちを焼くなんてどうかしてる。
でもそれはきっと、万里子さんが美人だから。
それに頭も切れて、優が『働きたい』と思えるような会社を作った社長さんだから。
私はまた自分の不甲斐なさからくる劣等感に悩む。
後部座席に座りながら落ち込む私は、気付かれまいと窓の外を一心に見ている振りをした。
10分もしないうちに会社近くの交差点で万里子さんは降りていった。
「ありがとう。透子さんもごめんなさいね。たっぷり仙台を満喫してきてね。」
大人の女性らしくゆったりと笑い、きびすを返すと颯爽と歩いていった。
「ごめんね、透子。前乗って。」
釈然としない気持ちを抱えながら助手席に座った。
「さ、レッツゴー!」
妙に明るい優に不信感。
私がこんな憂鬱な気持ちを抱えているのに、なんでそんなに楽しそうなの?
ムッとしたから少し嫌味ったらしく
「社長って女の人だったんだね。」
と言ってみたら、
「え?言ってなかった?そうだよ。3つ上の先輩。」
優はなんの邪気もなくしれっと返してきた。
「へぇ。3つ年上か。美人ね、万里子さん。」
「だね~。大学の時もメチャモテてたよ。今はバリバリ仕事できて隙がないけど、当時は若くて可愛い感じでもあったし。」
優は客観的に話してるんだろうけど、どうにも腹の虫が収まらない。
「ずっと付き合いがあったの?卒業してからも?」
「いや、3年ほど前にゼミの教授が退官するって言うんで、慰労会を開いたわけ。そこに先輩も来ててさ。その時誘ってもらったって訳。」
「……社会人になってからの優の仕事ぶりを知らないのに、よく引っ張ってくれたわね?」
「まぁ人手が足りないってこともあったし、在学中は結構可愛がってもらってたからね。俺の使い方を熟知してるっていうか……」
優の使い方か。
私は昨夜ようやくコツを掴んだってのに、万里子さんは10年も前に修得してるってことに、モヤット感が半端ない。
「で、なんで隣の部屋?」
信号待ちで、優は私の顔を覗き込んだ。
「…………もしかして」
「……なによ。」
「……もしかして、ヤキモチ焼いてくれてる?」
私は優を睨み付けた。だけど耳まで赤くなってる気がする。
優は確信を得たとばかりに口元を緩め、パァッと笑った。
「透子がヤキモチ!うっわ~!俺、何にもしてないのに妬いてくれたんだぁ!」
「う、うるさーい!!」
叫んでみたところで、優のはしゃぎっぷりは止まらない。
そのうち後ろからクラクションを鳴らされ、慌てて発進したから静かになったけど。
しかし、やっぱりなんだか腹が立つ!
優との勝負、勝算はまだまだ低い。