浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
「…………え?」
じりじりと距離を詰めてくる木嶋さんに、嫌な汗が出てきた。
いや、「そうなってもいい」と自暴自棄ながらさっきまでは思ってたはず。
なのに今目の前に辿り着いた木嶋さんの顔を両手で押し退けた。
「……いっっ!」
押し退けた私の爪が、木嶋さんの頬を引っ掻いたらしく、
彼は指で押さえている。
「すっ!すいません!」
襲われそうなのに思わず謝ってしまう、小心者の私。
「……こういうのって割りに合わないんだね……」
「…………?」
「おかしいなぁ。俺の考えた感じでは、弱った女子は強引な男に胸キュンして、拒否しながらも抵抗は弱まるはずなんだけど……」
胸キュン?女子?
この歳になるとなかなか聞かない言葉を耳にして、私の頭ははてなマークで一杯になった。
しかも、目の前の木嶋さんは頬を押さえながらも考え込んでいて、ワタシなんか蚊帳の外に置かれている模様。
チラッと目線を上げて私に問う。
「ねぇ、引っ掛かれても押し倒すべき?」
会話はどこへ向かうのか。木嶋さんの瞳をじっと見ながら私はある考えに辿り着いた。
「……もしかして、あなたは私で恋愛シミュレーションを?」
「そうなんだけどさ~……いや、ほんと難しいよね、こういうのって。駆け引きとか苦手だしさぁ。はぁ……」
天然だ。この人。
本気で泣いてた女で恋愛シミュレーションするなんて天然バカだ。
じわじわと怒りが込み上げてきたので、困り顔の木嶋さんに上から目線で言ってやった。
「『難しい難しい』って、わかろうとしないから難しいんですよ。怠慢ですよ、木嶋さんは。」
「……怠慢?」
「そうですよ。彼女を含め女の事をわかろうともしない、女の敵です。駆け引きとか言って、単純な恋愛を難解にしてるだけなんですよ。
彼女、可哀想……」
これは完全に八つ当たりだ。
私に泣ける場所をくれたってのに、説教するなんて。
「……単純か……なるほど!」
心を掠めた罪悪感が、陽気な笑顔に吹き飛ばされた。
「スゴいなぁ、君は!勉強になるよ!もっとその恋愛観を教えてよ!」
と手を握られた。
「は?」
「単純ってことはどういうこと?」
「いや、」
「好きなら押すってことだよね?押し倒したかったら押し倒せばいいの?」
「極論ですよっ!」
「なんとなくだけど閃きあった~!ありがとう!」
そう言うと、なんと私をぎゅっと抱き締めた。
「……ちょっ!」
「……ありがと。最後の一人のキャラが決まらなくて………ほんとにありがと。」
「え、あ?そ、そうですか?お役に立てて何より……」
「…………」
「…………?あの……そろそろ離し……?」
抱き締めてるというより、私の背中に回した腕が固まっていて、それをほどくように体を捩ると簡単に木嶋さんの腕から抜けることができた。
私の目の前の木嶋さんの視線は私を通り越してその後ろに向かっていた。
緊急事態
私は後ろをゆっくりと振り返る……と、玄関に向かうドアのガラス窓に翻るスカートが見えた。