浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
美味しい牛タンを食べて、優のユルい笑顔を見て、ホドホドに愛を囁かれたら……もう私なんて単純。
すっかり満足してしまった。
さっきの憂鬱、ドコいった?
昼前に起きたのであんまり時間がなくて、少しドライブして優の部屋に戻ってきた。
「晩ごはんも何か作っとこうか?」
「早めに一緒に食べようよ。それから送ってくから。」
「うん。じゃあ何食べたい?」
「簡単なのでいいよ。スーパー行こうか?」
昨日の夕飯は外食だったし、朝昼まとめて牛タンを食べに行った。
だから、何かあるかなと冷蔵庫を開けた。
すると、そこにあったのは水のペットボトル1本と青い蓋のタッパ。
そのタッパの上もタッパ。
タッパが四段重ね。
まさか。
一番上のタッパの蓋を開けてみる。
まさか、まさかの私が先週作り置きしたおかずだった。
「優……食べなかったの?」
「え?あっ!」
既におかずは微妙な臭いを放っていた。
「ごめん……忙しくて全然食べれなかった……」
申し訳なさそうに言い訳をする優。
食べてもらえなかったおかずのタッパを全部開けて、私は無言でシンクのごみ袋に棄てた。
「棄てなくても!俺、食べるから。」
「……!食べられるわけないでしょう……腐ってる……」
ごみ袋の口を閉めながら、唇を噛んだ。
「せめて冷凍にするとか……」
「ごめん。本当にごめん……」
優はオロオロして、私の手からタッパを取り上げようとした。が、私はそれを突っぱねタッパを洗う。
「透子……」
その様子を悲しそうに見ているのだろう。
言い訳も出来ないようで、それ以上口を開かなかった。
すべて洗い終わって、私はゆっくり優の方を振り向いた。
優はやっぱり眉も耳も尻尾も垂れきっていて、立ったまましょんぼりしている。
わかってる。
ご飯を食べる暇もないぐらい、新しい所で頑張ってるのは。一日だって早く仕事を部下よりこなせるようにならないと、誰も突如現れた部長に付いてはいかないだろうし。
それなのに、今日だって疲れてるのに私に仙台を案内しようと連れ出してくれている。
私は優と居られればそれでいいのに。
「優」
優はゆっくり顔を上げた。
「私、来週は用事あるからちょっと来れない。」
「……え、」
「優はゆっくり休んで。このままじゃ体を壊しちゃうよ。」
泣き出しそうな心を押さえ込み、できるだけ優しく言う。
「来週……来れないの?」
「うん。……ごめんね。」
「じゃあ俺、会いに行くから。日曜の朝になるけど!」
私はゆっくり首を振った。
「来週は実家方の友達と会うんだ。東京には居ないから。だから……」
「…………そう。透子、怒ってる?」
優のまっすぐな視線に耐えきれず、私は彼の背中に腕を回した。
「怒ってないよ。」
そう言うのが精一杯だった。