浮気男に絡めとられたら(続・恋愛格差)
「……万里子……」
私たち3人は立っている万里子さんを見上げた。
先程の酔っ払った足取りは変わらないけど、神妙な面持ちは素面の様に見えた。
「大丈夫ですか」と声を掛けるより早くガチャーンという音がした。
万里子さんは高く腕を上げ置物を落とし、目の前でそれは破片を撒き散らし折れていた。
「万里子……!」
私はその残骸を見つめ、呆然とした。
この置物が……なに?彼女にとってそんなに重要なものなの?
万里子さんは、散らばった欠片の中でも大きな物を拾い、もう一度床に投げつける。
「こんなもの!」「やめろ!万里子!」
投げたものが飛び出した木嶋さんの右頬に当たった。
「……っっ!」
木嶋さんに当てようとは思ってなかった万里子さんは、彼の頬から滲み出した血を見てぺたんとその場に座り込んだ。
「同じところを見てると思っていたのに……」
そう言うと頬に涙が伝った。
「私だけだったの……?一緒に同じものを目指して頑張ってると思っていたのに。
独りよがりの夢のせいで、私は幸太郎にとって、恋人としても上司としても必要の無いものになってしまった…………?」
「!?……っちが!」
「早く!早く言ってくれたら!『俺はもうやめたい』って言って……くれたら……。そうしたら……こんな事には……」
「違うって!」
木嶋さんは立ち上がり、ガバッと万里子さんの体を抱き締めた。
「……ごめん。こんなこと言わせるなんて……。そうじゃないんだよ、万里子……。」
「……何が違うの……他の女を抱いたくせに……」
「……抱いたって!?あれはハグ!お礼のハグ!な、透子ちゃん……だっけ?」
万里子さんを抱き締めたまま、すがるように私に同意を求めてきた。