空から雨が降る日。【完】


今頃優子、きっと緊張でがちがちなんだろうな。見たかったな。
そんなことも思いながらニヤニヤと口が緩む。

電車に乗って、数分。
目指す場所はいつもの場所で。

「いらっしゃいませ」

―…お店に入るといつもの奥の席に、彼はもう座って待っていた。


「…ごめんね、遅れちゃって」

「別にいいよ。俺もいまきたとこだし」

「あ、ならよかった」

「…」

「…」

無言が、続く。

なにか、喋らないと。
ううん、まずは言わないといけないこと。そのために来たん…だから。

「あっ「何飲む?」

言葉を出した途端、重なった声。
私は「じゃあ、これで…」と言って顔を伏せる。


言わなきゃ、言わなきゃ。
そのために来たんだから。

なのにこの沈黙が怖い。
晴太がなにを考えているのか怖くて。口が開かない。

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