空から雨が降る日。【完】



「あ、そ、そうそう。来週の水曜日にね企画はじめるんだ。…これ資料」


違う。違う。違う。


私が差し出す資料を見てあぁと呟く彼。

「よく取れたなーここ大手だぞ」

パラパラと資料を捲ってすげえすげえと言う。

大事なこと、これも大事だから…仕事として。

だけど違う違うよ、雫。
あんたが言わなきゃいけないのはこれだけじゃないでしょ。

わかっているのに頭では、ちゃんとわかっているのに言葉が出てこなくて。
もがいている私に晴太は優しく言葉をかけてくれた。

「ごめんな、この前」

「え…」

「いきなり、ごめん」

「や…っちが、別に…」

別にあの行為のことが、嫌だったんじゃない。
確かに私たちは付き合ってないし、その行為をするにはおかしい関係だけど。あの時はお互いにお酒が入っていた。

だからあれは、仕方のなかったことであって。

「私の方こそ、…ごめん」

勇気を振り絞って出た言葉。

伏せていた顔をあげると、そこにはニッと歯を見せて笑っている晴太が、いた。

< 207 / 311 >

この作品をシェア

pagetop