月が綺麗ですね。
少しの逡巡の後、月子さんはとんでもないことを言い出した。
「環那ちゃん…よかったら、うちで晩ごはん食べて行かない?」
「…え?」
「おい、調子乗んなよババア」
「どうしてもって訳じゃないんだけど…ダメかしら?」
月子さんから漂ってくるお願いオーラが眩しい。
突然のことで、とても動揺してしまう。
月子さんはすごい来てほしいみたいだけど、でも椎名くんは迷惑だろうし…
あぁ~でも月子さんすっごい目キラキラさせてる……
この場合どうすることが正しいのか、ぐるぐると考える。
「おい、そんな悩むなよ。母さんの言うことなんて気にすんな」
「で、でも…」
見つめられてしまって、考えが纏まらない。
どうしたらいいんだろう……
私が悩むうちにも、二人の間の空気はどんどん険悪になっていく。
それを見て私もどんどん焦る。
「環那ちゃん、お願い。ご馳走するから」
「いい歳こいて何やってんだよクソババア」
「あら、人に何か頼むのに年齢制限があるのかしら?」
「ちっ…ねぇけどさ、人の迷惑考えろよ」
「そんなに環那ちゃんが来るのが嫌なの?」
「なっ、俺は別に望月が来るのが嫌なんてっ」
「じゃあ何?」
「っ……」
「あの、私…っ!」
ご遠慮させてもらいます、そう言おうとした瞬間。
「はぁ……来いよ」
「え…?」
「母さんは一回言い出したら聞かないんだった、だから…来い」
「はっ……はい!!」
こうして私は成り行きで椎名邸へと招かれることになった。
どんな理由であれ、椎名くんから「来い」と言ってくれたことが、私は嬉しかった。