月が綺麗ですね。
♪~♪~~
不意に、キッチンの方から明るいメロディーが聞こえてきた。
「あ、できたみたい。朔、手伝ってちょうだい」
「はいはい」
「あ、私も手伝います!」
「そんなのいいわよ~、座ってて?」
ぐぬぬ、やんわり断られた。
「でも、ご馳走になる手前…」
「いいから座ってろ。ちょろちょろ動き回られると迷惑だ」
「なっ……!」
「環那ちゃん、お客さんで居てちょうだい?お願い」
「わかりました…」
浮きかけていた腰を下ろす。
本日2度目の月子さんのお願いビームにやられてしまった。
椎名くんが立ち上がると、同じソファに座る私も少し揺れた。
離れていく2人を見送ってから、手持ち無沙汰にキョロキョロしていたら。
「お前、親に連絡しなくていいのかよ」
ダイニングテーブルに配膳を始める椎名くんに言われた。
「あっ、忘れてた!ありがとう椎名くん。連絡しとく!」
スマホをカバンから出して、メッセを立ち上げた。
少し文面について迷う。
えーーっと、《友達の家でご飯をご馳走になるから、遅くなるね。》
こんなものかな?
……たぶん、周りから見たら友達なんだと思う。
でも本当は、友達なんかじゃない。
そんな生温い関係になるくらいなら、絶交する。
私が目指すのはあくまで彼女。
どうしてそこまで、って言われたら、確かに動機は不純。
どこが好きなのかも分からない。
でも、何故なのか、感じる。
あの背中を見た時、この人だ、って思った。
私はこの人が欲しい、内側から何かが叫んでいた。
だからたぶん、これでいい。
確かにあの時、彼の背中が私を支えてくれた。
あの寂しい背中が。
でも、ずっと背中なんか見てられない。
絶対に振り向かせる。
「環那ちゃん、食べましょう」
「はいっ」
ダイニングテーブルには、たくさんの料理。
サラダに、グラタン、オムレツ、スープ。
どれも、とっても美味しそう。
……どっち、座ろうかな…
椎名くんと月子さんは向かい合って座っている。
でも、よく見ると、椎名くんの隣に、一人分の配膳がされていた。
これは……座っていいん、だよね?
そっと、椎名くんの目を見ると、さっと反らされた。
…やったっ
少しウキウキしつつ、隣に座った。