月が綺麗ですね。



♪~♪~~


不意に、キッチンの方から明るいメロディーが聞こえてきた。


「あ、できたみたい。朔、手伝ってちょうだい」

「はいはい」

「あ、私も手伝います!」

「そんなのいいわよ~、座ってて?」


ぐぬぬ、やんわり断られた。


「でも、ご馳走になる手前…」

「いいから座ってろ。ちょろちょろ動き回られると迷惑だ」

「なっ……!」

「環那ちゃん、お客さんで居てちょうだい?お願い」

「わかりました…」


浮きかけていた腰を下ろす。

本日2度目の月子さんのお願いビームにやられてしまった。

椎名くんが立ち上がると、同じソファに座る私も少し揺れた。

離れていく2人を見送ってから、手持ち無沙汰にキョロキョロしていたら。


「お前、親に連絡しなくていいのかよ」


ダイニングテーブルに配膳を始める椎名くんに言われた。


「あっ、忘れてた!ありがとう椎名くん。連絡しとく!」


スマホをカバンから出して、メッセを立ち上げた。

少し文面について迷う。

えーーっと、《友達の家でご飯をご馳走になるから、遅くなるね。》

こんなものかな?


……たぶん、周りから見たら友達なんだと思う。

でも本当は、友達なんかじゃない。

そんな生温い関係になるくらいなら、絶交する。

私が目指すのはあくまで彼女。

どうしてそこまで、って言われたら、確かに動機は不純。

どこが好きなのかも分からない。

でも、何故なのか、感じる。

あの背中を見た時、この人だ、って思った。

私はこの人が欲しい、内側から何かが叫んでいた。

だからたぶん、これでいい。


確かにあの時、彼の背中が私を支えてくれた。

あの寂しい背中が。

でも、ずっと背中なんか見てられない。

絶対に振り向かせる。


「環那ちゃん、食べましょう」

「はいっ」


ダイニングテーブルには、たくさんの料理。

サラダに、グラタン、オムレツ、スープ。

どれも、とっても美味しそう。


……どっち、座ろうかな…

椎名くんと月子さんは向かい合って座っている。

でも、よく見ると、椎名くんの隣に、一人分の配膳がされていた。

これは……座っていいん、だよね?

そっと、椎名くんの目を見ると、さっと反らされた。

…やったっ

少しウキウキしつつ、隣に座った。




< 21 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop