月が綺麗ですね。
突然お邪魔したのに、料理はどれもこれも美味しかった。
椎名くんのお母さんなんだな~って、そこで感じた。
そして、食べながら月子さんは、椎名くんの話をたくさんしてくれた。
「一番最初に喋ったのは、ママ、だったのよ~……今ではこんな減らず口ばっか叩くけど、昔はママが大好きだったのよね~、朔?」
「うっせぇ、ってかそれ以上俺について話すな」
「あっ、お友達の誰より早く自転車に乗れるようになったのよ~、あの時の朔ったら、すっごい自慢気でね~?」
クスクスと、可愛らしく笑う月子さん。
当時のことを思い出しているみたいで、その表情は、どこから見ても“母親”の表情だった。
言葉の端々から、愛情が滲んでいた。
「殺すぞクソババア…」
「あっ、あとね、」
彼が何だかんだと優しいのは、きっとこのお母さんがいるから。
お父さまは出張でいらっしゃらなくて、本当はどうか分からないけれど、きっといい人。
椎名くんは、たくさんの愛情を貰ってきた。
少し、本当に少しだけ、胸が疼いた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。環那ちゃん、またいつでも来て?」
「はい」
気がつけば、食後のお茶までご馳走になってしまった。
「もう来なくていいぞ」
「私、環那ちゃんのこと待ってるわ」
「はい、また来ます」
「おいお前…」
言い切った私に、椎名くんが食いかかる。
「朔、駅まで送ってあげて?」
が、月子さんの一言に食い止められる。
「ちっ、さっさと出るぞ」
椎名くんは、月子さんには本当に逆らえないらしい。