月が綺麗ですね。
外に出ると、少し冷たい夜風が頬を撫でた。
2人並んで歩き出す。
隣を見ると、いつもの如くダルそうに、ズボンのポケットに手を突っ込んで歩く椎名くん。
今更だけど、何だかちょっと、信じられないかも。
椎名くんの家に上がっちゃって、ご飯までご馳走になっちゃって、椎名くんの小さいの頃の話なんかも聞けちゃって。
ちょっと、ううん、かなり嬉しい。
自然と頬が緩んでしまって、慌てて引き締めようとするけど、全然思い通りにならない。
今月の運使い果たしてるかも……
「お前は…なんでそんなに俺に拘るんだ?」
「え……?」
椎名くんは、戸惑う私に一瞥をくれると、また前を向いた。
「お前以外にも告白してきたヤツなんて山ほどいるけど、お前に言ったように断れば、大体は呆れてどっか行くぞ」
「まぁ、そうだろうね…」
「その他は、彼女になろうともせずに、俺に纏わり付いてくる。正直鬱陶しいし、別に、俺じゃなくてもいいんだろ、どうせ顔だ」
「……」
「でもお前は、」
立ち止まる。
だから私も彼に合わせて立ち止まった。
言葉の続きは、私を振り返ってから、紡がれた。
「お前は、もう5、6回フラレてんのに、諦めない」
「……うん」
「どうしてそんなに…?」
…話して、いいのかな。
私が彼に告白したのは、たぶん、一目惚れだけじゃない。
「椎名、くん……」
「ん?」
「明日、明日の放課後、ちゃんと話すね…」
「わかった、屋上で待ってる」
私はそれまでに、心の準備をしよう。
そして、何から話そうか、考えておかないと。
「もし、もしも……」
「……」
ゆっくりと、顔を上げて、椎名くんを見た。
「もしも………っ」
でも、月明かりと外灯の下で不安げに揺れる彼の瞳を見つけたら。
何も言えなくなってしまった。
「やっ、やっぱり、何でもない…」
「あ、あぁ、そうか」
「電車間に合わなくなっちゃうから、行こう」
「……」
ぱっと目を逸らして、再び歩き出した。
手持ち無沙汰に空を見上げたら、星は見えなかったけど、雲の間から、綺麗な月が見えた。
満月だった。
今の気持ちと不釣り合いなくらい綺麗。
ふと、とある文豪が、異国の愛の言葉を意訳した有名な台詞を思い出したけど、今はそんな気分じゃなかったから、やめた。
いつかの時に取っておこう。
いつか、なんて、もう来ないのかも知れないけれど……明日の告白が最後にならないことを願った。