月が綺麗ですね。
その人は、雪絵さんの会社の同僚の男の人だった。
ぶっちゃけ「やっぱりね」って感じだったけど。
だって、雪絵さんが彼を見る目が、私を見るときと同じくらい、いや、それよりも優しかったから。
夕飯を食べに来たって話だったけど。
雪絵さんが私を引き取ってから2年は経っていて、一度もそんなことなかった。
その時点で、確信していた。
雪絵さんは、この人を特別に思っている。
『初めてまして、住田って言います。…環那ちゃん、だよね?』
『はい、望月 環那です』
人好きのする微笑みに、自然と笑顔で返した。
『突然お邪魔してごめんね』
『いいえ、雪絵さんが男の人を連れてくるなんて初めてなので、嬉しいです』
雪絵さんが台所で準備をしている最中、住田さんから改めて自己紹介を受けた。
微笑うと、目が無くなる人。
第一印象は…いい人そう。
『柏田さんは、家ではどんな人?』
雪絵さんの苗字は柏田。
私の望月姓は、父方のもの。
『…うーん……豪快です、何事も。でも、料理は丁寧で上手です。お菓子作りは苦手みたいですけど』
『豪快なのかぁ…』
住田さんは、ほぉ~…という感じで相槌を打った。
これはもしや…両想いもあり得る?
異性に興味を持つって……つまり、そういうことだと思うし……
って、もしかしてもう付き合ってたりする?
『住田さんの前では、まだまだ猫被ってますよ~……道のり、長そうですね』
チラッとそちらを見て口角を上げると、住田さんは呆気にとられた顔で目をパチクリ。
でもその後、ふ、と笑うと。
『……あぁ、いくらでも時間はかけるつもりだよ。……君は、許してくれるかい?』
『当たり前です。雪絵さんには、本当に幸せになって欲しいんです。……あ、泣かせたら許しませんよ?』
挑むようにじっと見つめれば、力強く頷いてくれた。
良かった、優しそうだけど、意思の強い瞳をした人…きっと、大丈夫。
雪絵さんには、私を幸せにした分……いや、それ以上に幸せになって欲しい。
そのために、私に何が出来るか。
それは、少しでも雪絵さんに安心してもらうことだと思った。
だから、私も恋をすることにした。