月が綺麗ですね。
―――――「そういうこと、でして…」
俯いた顔が上げられない。
椎名くんの言葉を待つけど、一向に何も返ってこない。
逃げ出したい衝動に駆られながら、拳を握りしめていると。
「……ストーカーだな」
「……はっ?」
椎名くんがあまりにも、この場にそぐわないことを言うから、間抜けな顔をしたまま上げてしまった。
「だってそうだろ、何見てんだよ。四六時中張り付いてくるアイツらより質悪いぞお前」
「なっ、なにそれ!?…ふぐっ」
反論しようとした途端、いきなり近づいて来た椎名くんに、頬を挟まれた。
「ひょ、ひょっと、離ひなひゃないよっ」
「ぷっ…変な顔」
「だれの、へいらとっ!」
ジタバタと抵抗するけど、全然効果がない。
くっそぉ……!
「あのなぁ、お前の言いたいことは何となくわかった。でも、お前とアイツらは違うだろ」
「………」
真剣な声色と、瞳の色に、自然と抵抗が止まってしまう。
「お前は、ちゃんと理由をくれただろ。顔じゃなくて、俺のどこを好きになってくれたのか」
手が、ゆっくり頬から離れていった。
「椎名、くん……」
「誰も、教えてくれなかった。顔以外のいいところなんて……俺の昔話も、聞いてくれるか?」
ゆっくり、頷くと。
椎名くんは、その場にどっかり座った。
それに倣って私も座る。
「お前ほど壮絶なもんじゃない…ただ、俺の色素が薄かった話だ」
嘲るような笑いを、一瞬私に向けると、また空に視線を移した。